マンションの非常用発電機は、すべての建物に設置義務があるわけではありません。高さ31mを超える建物の非常用エレベーターに予備電源が求められる場合や、消防用設備の非常電源として選ばれた場合に設置されます。設置した時点で、点検と維持管理の義務が生じます。
一方で、停電時に給水ポンプや一般のエレベーターまで動くとは限りません。この記事では、共同住宅に特有の法令の扱いと、発電機で動く設備の範囲を先に整理します。続けて点検と報告の周期、長期修繕計画で見る更新時期、価格の目安と後付けの補助制度を、管理組合と管理会社の担当者向けにまとめました。
目次
マンションの非常用発電機の設置義務
マンションに非常用発電機を置く義務は、建物の高さと消防用設備の条件から個別に決まります。法令が求めているのは「予備電源」や「非常電源」であり、発電機そのものを一律に義務づける規定ではありません。
| 根拠 | 求められるもの | マンションでの扱い |
|---|---|---|
| 建築基準法34条2項・施行令129条の13の3 | 高さ31mを超える建築物の非常用エレベーターと、その予備電源 | 高さ31m超のマンションは非常用エレベーターに予備電源が必要(政令で除かれるものを除く) |
| 消防法施行規則12条1項4号(屋内消火栓設備) | 非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれか | 共同住宅は特定防火対象物に含まれないため、非常電源専用受電設備も選べる |
| 同上(特定防火対象物で延べ1,000㎡以上) | 自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれか | 店舗などが入る複合用途(別表第一(16)項イ)は特定防火対象物に当たる |
| 建築基準法施行令126条の4 | 非常用の照明装置(予備電源を持つ) | 共同住宅の住戸は設置対象から除かれている |
共同住宅は消防法施行令の別表第一(5)項ロに当たり、特定防火対象物を定める施行令34条の4には含まれていません。そのため、住居だけのマンションでは消防用設備の非常電源を発電機以外で満たしている例もあり得ます。非常電源専用受電設備とは、電力会社から受けた電気を消防用設備等の回路へ専用に送る受電設備です。発電や蓄電の機能は持たないため、広域の停電では電気を送れません。自分の建物がどの方式かは、竣工図と消防用設備等の点検票で確認してください。
マンションの非常用発電機の設置基準
設置の要否が決まったあとは、非常電源としての技術基準と設置場所の基準が適用されます。自家発電設備の基準は消防庁告示で定められ、停電から電圧確立までの時間や外箱の構造などが求められます。
マンションで特に問題になりやすいのは、設置場所です。地下の機械室に置くと浸水で止まるおそれがあり、屋上に置くと燃料の補給経路と騒音への配慮が必要になります。燃料の量が一定を超えると少量危険物や危険物施設としての手続きも加わります。
離隔距離や屋外設置の条件は設置基準の記事、燃料の指定数量は燃料の記事、消防・電気・環境の手続きは届出の記事で詳しく整理しています。
マンションの非常用発電機で動く設備
法令に基づいて置かれた発電機は、非常用エレベーターや屋内消火栓ポンプなど、防災のための設備に電気を送ることが前提です。給水ポンプや一般のエレベーター、共用照明まで動くかどうかは、設計時に接続した回路で決まります。
| 設備 | 停電時に動くか | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 非常用エレベーター(高さ31m超) | 予備電源で運転できるよう求められている | 竣工図、昇降機の仕様書 |
| 屋内消火栓ポンプ・スプリンクラー | 非常電源に接続されている | 消防用設備等の点検票 |
| 給水ポンプ(加圧給水) | 防災用とは別に回路を組んでいる場合だけ | 電気設備の単線結線図 |
| 一般のエレベーター・共用照明 | 同上。容量の制約で一部だけのこともある | 電気設備の単線結線図 |
| 各住戸のコンセント | 通常は対象外 | 管理会社への確認 |
「発電機があるから停電しても水が出る」と住民が考えていると、災害時に不満や混乱が起きます。管理組合は、どの設備が何時間動く設計なのかを管理会社か点検会社に確認し、防災マニュアルに書いておくと安心です。
マンションの非常用発電機の点検
マンションの非常用発電機は、消防法、電気事業法、建築基準法の点検が重なります。消防法の点検は、機器点検が6か月に1回、総合点検が1年に1回です。共同住宅は非特定防火対象物のため、消防への点検結果の報告は3年に1回になります。
| 点検・報告 | 周期 | マンションで注意すること |
|---|---|---|
| 消防法の機器点検 | 6か月に1回 | 消防用設備点検の契約に発電機が含まれているか |
| 消防法の総合点検 | 1年に1回 | 運転性能の確認(負荷運転か内部観察等)の周期と分けて管理する |
| 負荷運転または内部観察等 | 6年に1回(予防的な保全策を講じた場合) | 実施する年に費用が集中するため修繕積立金の計画に入れる |
| 消防への点検結果報告 | 3年に1回(非特定防火対象物) | 店舗が入る複合用途は特定防火対象物で1年に1回 |
| 電気事業法の点検 | 保安規程で定める(出力10kW以上) | 受変電設備の保安業務と一体で委託されることがある |
点検の義務を負うのは建物の関係者で、分譲マンションでは多くの場合、管理組合が契約の主体になります。管理会社に一括で任せている場合も、報告書に負荷運転の実施日と測定値が載っているかを確認してください。点検の全体像は法定点検の記事、運転性能の確認は負荷試験の記事で解説しています。
マンションの非常用発電機の更新時期
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインは、修繕周期の例として自家発電設備の取替を28〜32年としています。長期修繕計画の期間内に更新時期が入るかを、竣工年から確認してください。
この年数は計画を立てるための例で、法令で決まった寿命ではありません。税務上の法定耐用年数(建物附属設備の電気設備で15年)とも意味が違います。部品の供給終了や負荷試験での指摘があれば、周期より前に更新を検討することになります。
周期の考え方と更新を判断する材料は耐用年数の記事にまとめています。修繕積立金の見直しと合わせて、更新工事の概算を早めに取っておくと、総会での合意形成が進めやすくなります。
マンションの非常用発電機の価格
非常用発電機の本体価格は容量で大きく変わります。積算資料公表価格版2026年9月号では、ディーゼル発電機の本体が20/25kVAで404万円、80/100kVAで824万円(税別)です。ここに据付・配線・既設機の撤去などの工事費が加わります。
マンションの更新工事では、屋上や地下へのクレーン搬入、工事中の仮設発電機、夜間や休日の停電作業が費用を押し上げます。住民が生活したまま工事をするため、停電の日時の周知と、エレベーターや給水を止める時間の調整も必要です。
容量別の公表価格と防音仕様との差は価格の記事、点検にかかる費用の組み立ては容量と周期で変わるため、見積もりの際に作業範囲をそろえて比べてください。
マンションに発電機を後付けする補助
法令上の義務がないマンションでも、在宅避難のために非常用電源を後付けする管理組合があります。東京都は「東京とどまるマンション」に登録した既存マンションを対象に、非常用電源の設置費用を補助しています。
| 項目 | 東京とどまるマンション非常用電源等導入促進事業(令和8年度) |
|---|---|
| 対象 | 「東京とどまるマンション」に登録した既存の分譲マンション管理組合・賃貸マンション所有者等(新築は除く) |
| 発電機 | 補助率2/3・上限2,000万円 |
| 蓄電池 | 補助率3/4・18.8万円/kWhか1,316万円の小さい方 |
| 対象設備の条件 | 停電時に水の供給と1基以上のエレベーターの運転を同時または交互に行える電力供給能力 |
| 受付期間 | 令和8年6月5日〜令和9年1月15日(予算額に達した時点で終了) |
| 注意点 | 交付決定より前に契約すると対象外。法令で義務づけのある非常用電源の更新は補助額の算定に別の規定がある |
補助の要件は年度で変わるため、申請前に東京都マンションポータルサイトの交付要綱と手引きを確認してください。東京都以外でも自治体ごとに制度があるかは、所在地の住宅部局に問い合わせるのが確実です。
点検や修理の依頼先を探すならメンテナンス会社の比較、更新や後付けの工事を相談するなら設置・更新会社の比較、機種の系統はメーカー10社の比較表から確認できます。
マンションの非常用発電機のFAQ
マンションには必ず非常用発電機がありますか?
必ずあるわけではありません。高さ31mを超える建物の非常用エレベーターの予備電源や、消防用設備の非常電源として設置される場合があります。共同住宅は非特定防火対象物のため、非常電源を受電設備で満たしている建物もあります。
停電したらマンションの給水ポンプは動きますか?
設計によります。法令に基づく発電機は消防用設備や非常用エレベーターへの給電が前提で、給水ポンプを接続しているかは建物ごとに違います。単線結線図や管理会社への確認で、動く設備と運転時間を把握してください。
マンションの非常用発電機の点検結果は何年ごとに報告しますか?
共同住宅は非特定防火対象物のため、消防への報告は3年に1回です。店舗などが入る複合用途の建物は特定防火対象物に当たり、1年に1回の報告になります。点検自体は機器点検が6か月、総合点検が1年ごとです。
この記事を書いた人
執筆・編集:非常用発電機ナビ 編集部
非常用発電機の導入・更新・メンテナンスを検討する施設管理者のための比較ガイドです。会社情報は各社公式サイト、制度の説明は行政の公表資料を参照し、対応範囲と依頼前の確認事項を整理しています。
最終更新:2026年9月12日
