病院の非常用発電機は、消防法で特定防火対象物として扱われることが設置基準の出発点です。屋内消火栓設備を例にとると、延べ面積1,000㎡以上の病院では非常電源の種類が限られます。自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかにする必要があります。
よく言われる「72時間の稼働」は、すべての病院に共通する法令の義務ではありません。災害拠点病院の指定要件で、通常時の6割程度の発電容量と3日分程度の備蓄燃料が求められています。この記事では、法令ごとの設置基準と災害拠点病院の要件を先に整理します。続けて容量と燃料の決め方、法定点検の周期と止まりやすい理由、更新の進め方を、病院の施設管理者向けにまとめました。
目次
病院の非常用発電機の設置基準
病院の非常用発電機にかかる基準は、消防法・建築基準法・電気事業法の3つの法令と、病院の電気設備に関する日本産業規格に分かれています。どの設備に電気を送るかによって、見る条文が変わります。
| 根拠 | 病院に関係する主な内容 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 消防法・同施行規則12条1項4号 | 特定防火対象物で延べ1,000㎡以上なら、屋内消火栓設備の非常電源は自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備 | 消防用設備等の設置届と点検票 |
| 建築基準法施行令126条の4 | 非常用の照明装置の設置。病院の病室は設置対象から除かれる | 確認申請図と建築設備の定期検査報告 |
| 電気事業法 | 出力10kW(12.5kVA)以上の発電設備は自家用電気工作物で、保安規程と電気主任技術者が必要 | 保安規程と年次点検の記録 |
| JIS T 1022 | 病院・診療所の医用接地方式、非接地配線方式、非常電源、医用室の電源回路の安全基準 | 設計図書と電気設備の仕様書 |
消防法では特定防火対象物として扱われる
特定防火対象物とは、百貨店、旅館、病院、地下街など多数の者が出入りする防火対象物として消防法で定められたものです。対象は消防法施行規則12条1項4号で、特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上の建物が当たります。この建物では、屋内消火栓設備の非常電源から非常電源専用受電設備が外されています。
非常電源専用受電設備は、電力会社から受けた電気を消防用設備等へ送るだけの設備です。広域の停電では電気を送れないため、規模の大きい病院では発電機か蓄電池などの自立した電源が必要になります。
建築基準法では病室が非常用照明の対象外
建築基準法施行令126条の4は、一定の建築物の居室と避難経路に非常用の照明装置を求めています。ただし書で「病院の病室」は対象から除かれています。病室の照明を非常用発電機につなぐかは、法令ではなく病院の運用の判断になります。
廊下や階段などの避難経路は対象に入るため、予備電源の方式を図面で確認してください。非常用の照明装置は内蔵の蓄電池で動く製品もあり、発電機から給電されているとは限りません。
電気事業法とJIS T 1022
電気事業法では、出力10kW以上の発電設備を置くと保安規程の届出と電気主任技術者の選任が必要です。受変電設備で保安規程を持っている病院も、発電設備の追加や更新で記載の見直しが要るかを主任技術者に確認します。
JIS T 1022は「病院電気設備の安全基準」という名称の日本産業規格で、2018年に改正された版があります。法令ではありませんが、医用室の非常電源の区分を設計者と話すときの共通の物差しになります。手続きの全体像は届出の記事、一般の建物に共通する基準は設置基準の記事で詳しく解説しています。
病院の非常用発電機と災害拠点病院の要件
災害拠点病院の指定要件は、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を求めています。あわせて3日分程度の備蓄燃料の確保も必要です。厚生労働省の令和5年2月28日付の通知による改正で、令和6年4月1日から適用されています。
| 要件の項目 | 災害拠点病院指定要件の記載 | 一般の病院で考えること |
|---|---|---|
| 発電容量 | 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等 | 停電時に動かす負荷を決め、その合計から容量を出す |
| 燃料 | 3日分程度の備蓄燃料 | BCPで決めた運転時間と、補給の手段から量を決める |
| 都市ガスを使う場合 | 非常時に切替え可能な他の電力系統等を有しておく | ガスの供給が止まった場合の代わりの電源を決めておく |
| 平時の検証 | 病院の基本的な機能に必要な設備へ電源が確保され、非常時に使えることを検証しておく | 発電機につながる回路を図面と実際の運転で照合する |
| 浸水対策 | 浸水想定区域などでは止水板の設置や自家発電機等の高所移設などを講じる | ハザードマップで設置階と浸水深を確認する |
当サイトが確認した国の資料で、病院の発電機の運転時間の目安を示していたのは、この災害拠点病院の要件でした。「72時間」という説明を見かけても、災害拠点病院に指定されていない病院には、この要件はそのまま適用されません。
一般の病院でも、自院のBCPで停電時の診療継続を約束している場合があります。その場合は、同じ考え方で設備を点検しておく価値があります。指定要件は見直しが続いているため、計画を立てる前に都道府県の医療政策担当部局で最新の要件を確認してください。
病院の非常用発電機の容量と燃料の決め方
病院の非常用発電機の容量は、停電時に動かす負荷を先に選び、その合計から決めます。すべての設備を動かそうとすると、容量と燃料が膨らみます。まず診療の継続に必要な負荷を部門ごとに洗い出してください。
- 消防用設備等と非常用エレベーターなど、法令で非常電源が求められる負荷を確定させる。
- 手術室、集中治療室、透析室、検査部門など、診療を続けるために電源が要る部門を院内の各部署と決める。
- 給水ポンプ、医療ガス、空調、電子カルテのサーバーなど、診療を支える設備のうち止められないものを選ぶ。
- 負荷の合計と始動時の電流から、必要な容量を設計者に計算してもらう。
- 決めた運転時間と燃料消費量から、備蓄燃料の量と補給の方法を決める。
| 負荷の区分 | 洗い出す候補の例 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 法令で求められる負荷 | 屋内消火栓ポンプ、スプリンクラー、非常用エレベーター | 消防用設備等の点検票、建築確認の図面 |
| 診療の継続に必要な負荷 | 手術室、集中治療室、透析室、検査機器 | 医療機器の仕様書、部門ごとの電源系統図 |
| 診療を支える設備 | 給水ポンプ、医療ガス、電子カルテのサーバー | 単線結線図、設備の銘板 |
| 停電時に止めてよい負荷 | 一般の空調、事務室の照明とコンセント | 部門と合意した停電時の運用表 |
燃料の量は、運転時間に機種の燃料消費量を掛けて求めます。軽油は指定数量が1,000リットルで、貯蔵量によって少量危険物の届出や危険物施設の許可が必要になります。3日分を院内に置こうとすると、タンクの増設で許可が要る量に達することもあります。
容量の計算方法は容量計算の記事、燃料の指定数量と劣化は燃料の記事で解説しています。ガスを使う機種の考え方はガスタービンとディーゼルの比較にまとめました。
病院の非常用発電機の法定点検
病院の非常用発電機の点検は、消防法、電気事業法、建築基準法の3つが重なります。病院は特定防火対象物のため、消防への点検結果の報告は1年に1回で、共同住宅や事務所などの3年に1回より短くなります。
| 点検・報告 | 周期 | 病院で注意すること |
|---|---|---|
| 消防法の機器点検 | 6か月に1回 | 発電機が消防用設備点検の契約範囲に入っているか |
| 消防法の総合点検 | 1年に1回 | 運転性能の確認と周期を分けて管理する |
| 負荷運転または内部観察等 | 6年に1回(予防的な保全策を講じた場合) | 保全策を講じていない場合は毎年の総合点検で確認する |
| 消防への点検結果の報告 | 1年に1回(特定防火対象物) | 報告の締切と点検の実施日を同じ予定表で管理する |
| 電気事業法の点検 | 保安規程で定める | 停電を伴う点検の日程を院内で調整する |
| 建築基準法の定期検査 | 特定行政庁が定める時期 | 非常用の照明装置など建築設備の検査と報告 |
延べ面積1,000㎡以上の建物では、消防用設備等の点検を消防設備士か消防設備点検資格者が行う必要があります。この規模の病院では、院内の職員だけで消防用設備等の点検を済ませることはできません。
負荷運転の周期と内部観察等との違いは負荷試験の記事、法令ごとの点検の全体像は法定点検の記事で解説しています。費用の組み立ては点検費用の記事で確認できます。発電機を始動させる蓄電池の交換時期は蓄電池の記事にまとめました。
病院の非常用発電機の点検が止まる理由
厚生労働省は、2018年8月1日時点の非常用電源の点検状況を全病院を対象に調べました。電気事業法の点検を実施していない病院は、非常用電源を持つ病院の8.3%にあたる563病院でした。消防法では3.5%、建築基準法では7.3%が未実施と回答しています。
| 関係法令 | 非常用電源を保有 | 点検を実施済み | 未実施 |
|---|---|---|---|
| 電気事業法 | 6,754病院 | 6,191病院(91.7%) | 563病院(8.3%) |
| 消防法 | 6,446病院 | 6,069病院(94.2%) | 226病院(3.5%) |
| 建築基準法 | 4,120病院 | 3,695病院(89.7%) | 301病院(7.3%) |
この調査は、2018年の大阪府北部の地震で国立循環器病研究センターの非常用電源が使えず、一時的に停電したことをきっかけに行われました。同センターでは、停電を伴って実施する電気事業法の保安検査を少なくとも5年以上実施していなかったことが分かっています。
厚生労働省は、未実施の病院に2019年6月1日時点の状況を聞き直しています。電気事業法の点検がなお未実施だった122病院のうち、80病院(65.5%)が「患者の継続的な医療提供のため実施調整困難」を理由に挙げました。次いで多かったのは「委託者と作業実施の日程が合わなかった」の26病院(21.3%)です。
停電を伴う点検は年間計画で先に日程を決める
調査の回答を見る限り、点検が止まる原因は費用ではありません。停電の日程を確保できないことが中心です。手術や透析の予定が固まる前に、施設部門が点検日を年間計画に入れ、診療部門と合意しておくと先送りを防げます。
- 停電させる範囲を系統ごとに分けられるか、主任技術者と保守会社に確認する。
- 停電中に重要な負荷をどの電源でつなぐかを、点検の計画書に書いてもらう。
- 休日や夜間に実施する場合の割増料金を、見積もりの段階で確認しておく。
- 実施できなかった場合の次の予定日と、その理由を記録に残す。
病院の非常用発電機の更新と依頼先
病院の非常用発電機を更新するときは、容量と燃料を災害時の運用に合わせて見直す機会になります。税務上の法定耐用年数は15年ですが、実際の更新時期は部品の供給状況と点検での指摘から判断します。
浸水想定区域に建つ病院では、更新にあわせて設置階を上げられるかも検討します。災害拠点病院の指定要件でも、止水対策や自家発電機等の高所移設が挙げられています。工事中に重要な負荷をどの電源でつなぐかも、計画の段階で決めておく必要があります。
国は防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策で、災害拠点病院等の設備を補助しました。対象は燃料タンクの増設や非常用自家発電装置の更新で、125病院・2020年度までの事業です。現在の年度に同じような補助があるかは、都道府県の医療政策担当部局に確認してください。
見送ったほうがよい依頼のしかた
容量だけを伝えて本体価格の見積もりを集めるのは避けてください。見積もりの前に、停電時に動かす負荷の一覧、燃料で運転する時間、工事中の仮設電源の範囲をそろえます。これがないと、各社の前提が違って比べられません。
更新の時期の考え方は耐用年数の記事、容量ごとの公表価格は価格の記事にまとめています。点検や修理を任せる会社を探すならメンテナンス会社の比較をご覧ください。更新工事の相談先は設置・更新会社の比較、機種の系統はメーカー10社の比較表から確認できます。
病院の非常用発電機のFAQ
病院の非常用発電機は72時間動かす義務がありますか?
すべての病院に共通する法令上の義務ではありません。災害拠点病院の指定要件では、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等と、3日分程度の備蓄燃料の確保が求められています。それ以外の病院は、BCPで決めた運転時間をもとに設備を計画します。
病院なら非常電源は受電設備でも足りますか?
延べ面積1,000㎡以上の病院では足りません。病院は特定防火対象物のため、屋内消火栓設備の非常電源は自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかにする必要があります。延べ面積が小さい場合の扱いは所轄消防署で確認してください。
病院の非常用発電機の点検結果は何年ごとに報告しますか?
病院は特定防火対象物のため、消防への報告は1年に1回です。点検自体は機器点検が6か月ごと、総合点検が1年ごとに行います。電気事業法の点検は保安規程で定めた周期に従います。
この記事を書いた人
執筆・編集:非常用発電機ナビ 編集部
非常用発電機の導入・更新・メンテナンスを検討する施設管理者のための比較ガイドです。会社情報は各社公式サイト、制度の説明は行政の公表資料を参照し、対応範囲と依頼前の確認事項を整理しています。
最終更新:2026年9月12日
